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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(ラ)43号 決定

抗告人 (原審補助参加申立人) 長田昌久

訴訟代理人 大橋茹

相手方 (原審原告) 奥田昇二郎 外二名

主文

原決定を取消す。

抗告人の参加申出(福井地方裁判所武生支部昭和三十二年(タ)第一〇号認知請求事件に対する補助参加申出)を許可する。

理由

本件抗告申立の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、抗告人が本件参加申出の理由として掲げるところは、要するに原審原告たる相手方等が原審被告検察官に対し亡長田八太夫の子であることの認知を求めているところ、抗告人は右亡長田八太夫の嫡出子でありその相続人であるから右認知請求訴訟(福井地方裁判所武生支部昭和三十二年(タ)第一〇号)の結果につき重大な利害関係を有するものである。よつて民事訴訟法第六四条により原審被告検察官を補助するため参加申出に及ぶというのである。

おもうに民事訴訟法第六四条にいわゆる訴訟の結果につき利害関係を有するものとは、訴訟の結果につき私法上又は公法上の権利関係乃至法律的地位に法律上影響を及ぼすという法律的な利害関係を有するものであることは原決定の指摘するとおりである。而して認知は嫡出でない子の事実上の父又は母がこれを自己の子として承認し法律上の親子関係を発生させようとする単独の要式行為であるが、これによつて嫡出でない子と事実上の父又は母との間に法律上の親子関係を生じ親権、扶養、相続等親子間の一切の権利義務が発生するのみならず、認知を求められた事実上の父又は母に既に他に嫡出子があればこれらの者との間にも新に親族関係が創設されるに至るのである。そしてその認知がもし真実に反する場合にはその真実に反する認知が形式上存在するために認知者の子は身分上重大な不利益を蒙る場合がある。だからこそ民法第七八六条は「子その他の利害関係人は、認知に対し反対の事実を主張することができる」旨規定し、子が真実に反する認知に対し認知無効の訴を提起し得る途を開いているのである。のみならず人事訴訟法第一八条、第三二条によれば認知の訴につき言渡した判決は第三者に対してもその効力を有するのであつて、右判決が確定すると子その他の利害関係人はもはやこれを覆すことはできないのである。従つて「右民法第七八六条に掲げる者は検察官を相手方とした認知の訴訟において利害関係を有する第三者として民事訴訟法第六十四条によつて補助参加をすることができる」ものと解すべきである。いま本件について考えるのに、本件疏明によれば抗告人が前記認知の訴における前記亡長田八太夫の嫡出子であることが明らかであり、該訴においてもし右亡長田八太夫と原審原告たる相手方等との間に認知による親子関係が創設されると、その効力は直ちに抗告人に影響を及ぼし、しかもこれによつて抗告人と相手方等との間に新に親族関係が創設され、ひいては抗告人の遺産相続による相続財産の減少乃至は相手方等との間に扶養関係が発生するおそれがないとはいえない。そしてこれらの関係は単なる間接的、経済的利害関係とのみ観念することはできず、むしろ右認知の訴の結果による法律上の直接の利害関係と解するを相当とする。されば本件抗告人の参加申出は理由があるからこれを採用すべきものであるのにかかわらず、これを理由なしとして却下した原決定は失当であり本件抗告は理由がある。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 成智寿朗 裁判官 山田正武 裁判官 至勢忠一)

抗告の趣旨並びに理由

原決定を取消す。

抗告人の参加申出を許可する。

趣旨の御裁判を求める。

一、本件参加申出の理由の要旨は左の通りである。

即ち相手方等が原告として、亡長八太夫の昭和三二年十一月二日死亡するや検察官を被告として福井地方裁判所武生支部昭和三二年(タ)第一〇号認知請求事件により認知を訴求していた。抗告人は右亡長田八太夫の嫡出子でありその相続人であるから右事件の結果に付き重大なる利害関係を有するので、右被告である検察官を補助する為め参加の申出をなした処原審は之を却下したのである。

二、原審の却下した理由は左の通りである。

(一)参加申出人である抗告人が亡長田八太夫の嫡出子であることを認め、それだけでは訴訟の結果に法律上の利害関係を有するものと云うことは出来ない。(二)認知が許容されれば参加申出人が原告である相手方と同順位で右亡八太夫の遺産を相続することになること、又嫡出子である抗告人と認知を受けた相手方等と親族関係を生じ相互に扶養関係が発生すること、は何れも経済的関係である。(三)処が経済的関係並に感情的関係を除き他に本件認知請求訴訟の結果につき私法上又は公法上の権利関係に法律上影響を及ぼすと云う法律的な利害関係を有することの疏明がない。尚法律論として原審は認知請求者と認知を求められる者との間に親子関係が発生する。しかし認知請求者と嫡出子間に発生する法律上の関係は間接的に生ずるに過ぎない。間接的な関係では参加は許さないという考え方である。

三、本件は嫡出子である抗告人が先代八太夫に対する認知請求事件に補助参加が出来るかどうかによつて決する処換言すれば民事訴訟法第六十四条に所謂訴訟の結果に付利害関係を有する第三者に該るかどうかにある。而して、利害関係に付いては左記判例がある。

(イ)大審院大正四年(ク)第四七五号大正四年十二月四日第三民事部決定(抄録六二巻一三、六四五頁以下)は、家督相続に対する限定承認無効確認事件にその債権者が従参加申出したのを許容して本訴の判決が必ずしも直接其の者に対し効力を及ぼしその実体権に影響する場合に限らず自己の権利行使に幾多の利便を享くることを得るに於ては参加を許すべき旨を判示し

(ロ)大審院昭和八年(ク)第七九七号昭和八年九月九日第三民事部決定(判例集(民事)第一二巻二、二九四頁以下)によれば「補助参加の要件たる利害関係とは必ずしも本訴訟の判決が直接に参加人の実体権に影響を及ぼすべき場合に限らず当該訴訟の結果に付き利害関係を有すること、換言すれば該訴訟の判決の効力又は内容に付法律上利害関係の影響を被るべき場合であれば足る」ことを明示している(同二、三〇〇頁判決要旨全文御参照)

(ハ)東京控訴大正四年(う)第三九号大正四年十月十一日決定(評論四巻民訴二二〇頁)は、所謂一方の勝訴により権利上利害の関係を有する者とは当事者又は訴訟物と或具体的の権利関係に立ち若し誤れる裁判あるときはこの関係の上に不利益を蒙る恐ある者を云う」と判示している。

四、認知を請求される者の嫡出子は認知請求訴訟については訴訟の結果に付き法律上利害関係がないかどうか、換言すれば、認知請求が認容されれば、認知請求者である本件相手方と嫡出子である抗告人間に親族関係が創設され経済的には相互に扶養関係が発生し相互の相続関係に影響を及ぼすこととなるが此等は前掲(ロ)の判決に所謂「該訴訟の判決の効力又は内容に付法律上の利害関係を被るべき場合」に該るか、(イ)の判決に所謂「自己の権利行使に幾多の利便を享くる」場合に該るか、(ハ)の判決に所謂「当事者又は訴訟物と或具体的の権利関係に立ち若し誤れる裁判あるときはこの関係の上に不利益を蒙り又は蒙る恐ある者」に該るかどうかに帰する処之を審究するに左の通りである。

五、(1)民法第七八六条には「子その他の利害関係人は認知に対して反対の事実を主張することができる」と規定し、右規定は旧民法八三四条と同一法文であり右利害関係人中に認知者の妹をも包含する(重大な利害関係あり)旨大審院大正十五年(オ)第九七〇号同年十二月二十日第一民事部判決(判例集五巻八六九頁以下)は判示している。

(2)民法第七八五条(旧法第八三三条)は認知の取消を認めない旨規定している処大審院大正十年(オ)第八五七号大正十一年三月二十七日第二民事部判決は(判例集第一巻一三七頁以下)認知が真実に反するの事由に基き子その他の利害関係人は訴を以てその無効を主張することが出来る旨を判示し(右一五三頁判示第二御参照)

(3) 大審院昭和五年(オ)第三、四四九号昭和六年九月三十日第三民事部判決(評論二十巻民訴五八四頁)は「親族間の関係を明確にし其の疑なからしむるは親族に属する者各自の利益なりと云うべきが故に其の関係に付き争の生じたる場合に於ては法律に反対の規定存せざる限り各親族はその確定を求むる訴を提起し得るものとす」と判示している。

右各判示を綜合すれば本件に於ける亡長田八太夫の嫡出子である抗告人が認知請求者である各相手方と直接親族関係を生ずる結果関係からみれば重大な利害関係を有するものであると云わねばならない。殊に認知者の妹が利害関係人である以上嫡出子である抗告人が除外さるべき理由は之を見出し得ないのである。加之、人訴第二九条は夫が死亡した場合相続権を害せらるべき者その他夫の三親等内の血族に訴権を与えている点を稽れば相続関係、血族関係の発生するや否やを直接の利害関係にかからしめるものと認むるに何等の支障なきものと謂うの外なき処である。

六、要之、認知が真実に反する場合訴を以て反対の事実を主張し得る子その他の利害関係人が認知請求訴訟に民訴第六九条第二項の制限に反せざる限り補助参加をなし得ることは理の当然であると云わねばならない。殊に本件は亡八太夫の死亡をまつて既に二十余年経過せる事実を情を知らない検察官相手として提起した訴訟であつて何故亡八太夫本人が生前中本件が提起せられなかつたかを怪むものである。然らば前記主張に反する原決定は大審院の従来の判例に反するもので速に取消さるべきものである。

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